“NDLデータ利活用ワークショップ~「国立国会図書館デジタルコレクション」のお宝資料248万点から地域の歴史・文化を掘り起こそう~”開催レポート

開催日2015年8月8日(土)
会場国立国会図書館 東京本館 新館3階 大会議室
国立国会図書館デジタルコレクション

国立国会図書館(NDL)は8月8日、「アーバンデータチャレンジ2015(UDC2015)」プロジェクトの開催にあわせて、同館が所蔵するデータの利活用を考えるワークショップ「NDLデータ利活用ワークショップ」を開催しました。

今回のイベントは、NDLが提供している「国立国会図書館デジタルコレクション(略称:デジコレ)」の資料248万点の中から、地域の歴史・文化を掘り起こす取り組みを体験してもらうことを目的としたワークショップです。当日は、UDC実行委員などによるオープンデータを使った地域の課題解決やオープンガバメント、ウィキペディアに関する講演のほか、NDLが提供するデータの紹介なども行いました。

ワークショップでは参加者がグループごとに分かれて、さまざまな地域テーマに関するデジタル化資料をデジコレから探し出す作業を行いました。これらの作業は、ウィキペディアの記事を編集することを想定したもので、ウィキペディア編集を通じてデジコレから資料を探すことの面白さ、奥深さを感じてもらうことを目指しました。参加者は、研究者やエンジニア、図書館司書、一般市民など幅広い層の人々が集まりました。

会場全景

冒頭でNDLの電子情報部 電子情報流通課の林直樹氏が挨拶を行いました。

スピーカー:NDL 電子情報部 電子情報流通課 林直樹氏

「当館はUDC2015にデータ提供支援拠点として参加しています。今回のワークショップはUDC2015の開催にあわせて開催するもので、当館では初めての試みとなります。本日のイベントは、NDLのデータの利活用において、次につながるものにしたいと思っておりますので、みなさまからご指導・ご協力いただけますと幸いです。17時15分までの長丁場となりますが、みなさまどうぞよろしくお願いします」(林氏)

知識のインプット
13時30分~14時30分

次に、ワークショップの準備として、参加者に対してオープンデータやウィキペディア、デジコレなどに関する知識をインプットするための講演がいくつか行われました。

(1)「オープンガバメントと地域の課題解決~主役はあなたです~」

スピーカー:UDC実行委員/OKFJ事務局長/OSMFJ事務局長/Georepublic Japan 東修作氏
東修作氏

東氏は、「オープンデータ」や「オープンガバメント」、「ガバメントデータ」、そして3つの領域が重なりあう「オープンガバメントデータ」の関係を説明した上で、NDLのデータは「ガバメントデータ」であると同時に、外のものを預かっているという点でほかのデータとは少し切り口が違う、と説明しました。さらに、東氏自身が東日本大震災において、政府や自治体のウェブサイトに掲載されていたデータを二次利用するために、それぞれ別々に許可を求める必要があったため、避難所情報のデータを使用するのに苦労したという体験を紹介した上で、オープンデータやオープンガバメントの必要性について語りました。 また、自治体と自治会(町内会)、市民ではそれぞれ保有する情報量が異なり、情報の非対称性は権力を生みやすく、G8(G7)などでオープンデータが取り上げられるときはこの観点が多いことも説明しました。さらに、千葉市で家庭ごみ手数料の有料化を導入した例を挙げて、市民参画には“魔法の杖”や“銀の弾丸”はなく、行政側がデータを公開することだけでなく、市民側が地域に関心をもつことの大切さも強調しました。  その上で、オープンデータやオープンガバメントは「透明性の確保」「市民参画」「経済効果」などを実現するための手段のひとつであるとして、短期的になにかを行なってすぐに効果が出るものではない、とも語りました。「オープンデータやオープンガバメントというのは、枯れた原野に水が少しずつ行き渡って、少しずつ豊かになり、最終的にはめぐりめぐって社会全体のためになる、そのような活動だと思っています」(東氏)

(2)「地域を紐解く端緒としてのウィキペディアタウンの取り組み」

スピーカー:UDC実行委員/LOD(Linked Open Data)チャレンジ実行委員/インディゴ株式会社 高橋陽一氏
高橋陽一氏

高橋氏は、ワークショップやイベントを実施し、地域の文化財や観光名所など“地域資産”となるような情報を調べて、その成果をウィキペディアの記事にまとめる取り組み「ウィキペディアタウン」について紹介しました。“地域資産”の調べ方としては、「見る(現地調査/写真)」「訊く(郷土史会など)」「調べる(図書館文献)」の3つの方法があります。これらを実施するための事前準備として、「対象地域資産の選定」や「参考文献の用意」も必要であり、そのために地域の図書館を利用することも必要となると説明しました。 また、最近は日本でも色々な形でウィキペディアタウンのバリエーションが生まれており、たとえば北海道の森町ではスマートフォンアプリ「ウィキ町史」を利用して、街の歴史を中心に充実させていく取り組みを行なっているほか、“街道”について調べる「ウィキペディア街道」という取り組みも行われるなど、独自の発展を見せていると語りました。 高橋氏はウィキペディアタウンの効能として4点を挙げました。ひとつ目は、地域差を紐解く端緒(きっかけ)になること、2つ目は、多分野/多世代交流の契機になること、3点目は、findability(見つけやすさ)が向上し、検索エンジンなどですぐにヒットするようになること、4点目は、図書館資料への導線になることです。さらに、地域の古写真のアーカイブ化にも有効である点も挙げて、「地域の古写真は地元の人しか持っていません。これらの写真を集めてオープンライセンスでアーカイブ化することにより、次の世代に継承できます。また、集めた写真をもとに地域資産を紐解くなど、さまざまな用途にも利用可能です」と語りました。

(3)「ウィキペディアを知ろう その概要と編集方法」

スピーカー:ウィキペディア日本語版管理者/編集者 日下九八氏
ウィキペディアタウンの骨子

日下氏は、ウィキペディアの編集について、この日に覚えてほしいこととして、「ウィキペディアは自分が正しいと思うことを載せるものではなく、百科事典である」「ウィキペディアは、“なにを見て書いたのか”を書くことで信頼性を担保しているので、出典や参考資料を必ず書く」の2点を挙げました。 さらに、「フリーソフトウェア運動/オープンソフトウェア」「オープンガバメント/オープンデータ」「オープンアクセス」などさまざまなムーブメントを紹介した上で、「色々な人たちがこれらの情報にアクセスできるようになったほうが世の中が便利になるので、このようなムーブメントの有り様を知り、そこに載っている情報をどのように使うかを考えることが大切です。『自分が調べたことをほかの人に伝わりやすいようにまとめ直して、それをオープンライセンスで公開する』というウィキペディアの活動を行うことで、そのようなさまざまな活動をしている人たちとつながっていくことができます。ウィキペディアは誰が参加してもいいし、参加者それぞれが自分たちの得意分野をうまく活用することにより、それを通じてさまざまなものがまとまっていくことができます」(日下氏)

(4)「国立国会図書館デジタルコレクションの紹介」

スピーカー:電子情報流通課標準化推進係長 橋詰秋子氏
スピーカー:橋詰秋子氏

橋詰氏は、「国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)」の紹介および使い方の解説を行ないました。デジコレとはNDLが収集・保存したデジタル資料の検索・閲覧を可能にしたデータベースです。そのコレクションは「図書」「雑誌」「古典籍」「博士論文」「官報」「新聞」「憲政資料」「日本占領関係」「プランゲ文庫」「歴史的音源」「科学映像」「脚本」「電子書籍/電子雑誌」と13の分野に分かれており、これらは「NDLが所蔵資料をデジタル化したもの」「NDL以外の機関がデジタル化したもの」「国の機関等がウェブサイトに掲載した刊行物」の3種類で構成されます。このうち、今回のワークショップで使う可能性の高い3つのコレクションとして、「図書」「雑誌」「古典籍」の詳しい内容も紹介し、それぞれ提供状況の概要を説明しました。 さらに、デジコレは「インターネット公開(本文までインターネットで公開しているもの)」「図書館送信資料(デジタル化資料送信サービス参加館およびNDLの館内で閲覧可能なもの)」「NDL館内限定(NDLの館内でのみ閲覧できるもの)」と、公開範囲によって3つに分けられることを説明しました。  さらに、橋詰氏はデジコレの具体的な検索方法を解説した上で、ウィキペディアの記事作成に使えるようなパブリックドメイン資料を見分ける方法についても解説しました。

パブリックドメイン資料の見分け方

ワークショップ
14時30分~16時30分

インプット後、参加者がテーマごとにグループに分かれてワークショップがスタートしました。1グループの人数は5~6人で、テーマは、ワークショップに参加した各地の図書館の司書が、それぞれの地元に関連のあるテーマを提案しました。

また、講演のスピーカーを務めたインディゴの高橋陽一氏が「写真」というテーマでグループを作ったほか、講演でウィキペディアの概要を説明した日下九八氏がファシリテーターとなり、ウィキペディアの記事編集を行いたい人向けに、実際に編集作業を行うグループも用意されました。

各グループでは、各テーブルに設置されたノートパソコンや持参したパソコンを使ってデジコレにアクセスして、ウィキペディアに掲載できそうなデジタルコンテンツや、記事執筆に使えそうな参考資料、古写真などを探し出しながら、参加者同士で活発に議論や情報交換を行いつつ、探した資料やデータをリスト化していきました。参加者が見つけたデータを記入するための作業メモ用の資料リストも配られて、ここにURLやウィキペディアに書く場合のタイトル、検索キーワード、資料がどれくらい”使える”かどうかの評価なども書き込んでいきました。

ワークショップの様子
ワークショップの様子
ワークショップの様子

成果発表
16時30分~17時15分

ワークショップでどのような資料やデータが見つかったのか、またどのような発見があったのかをグループごとに発表しました。

(1)「古写真」

多摩川に関連した古写真

パブリックドメインの古写真を探して、自由に利用できるメディアファイルを集めるデータベースプロジェクト「ウィキメディア・コモンズ」に登録することを目的としたグループです。このグループでは、「多摩川」をテーマに収集するチームと、過去の災害に関する古写真を集めるチームに分かれて調査を行いました。その結果、“多摩川チーム”が探した写真として、二子玉川近辺の写真と、調布近辺の写真の2枚を、ウィキメディア・コモンズに登録することができました。“災害チーム”については“インターネット公開”の写真では、あまりいい写真を見つけることができませんでしたが、パンフレットの中に使われている写真で、良さそうなものをいくつか発見できました。

(2)「ウィキペディア編集」

ウィキペディア編集を体験することをテーマとしたグループ。調べるテーマとしては、古めの資料で書けそうなテーマということで、遊具の“シーソー”を選択しました。その結果、3人のメンバーがウィキペディアのアカウントを取得して加筆を行い、シーソーが通称「ぎったんばっこん」「ぎっこんばったん」「ばったんこ」など、さまざまな呼ばれ方をしていることや、シーソーの歴史に関する事柄をいくつか加筆することができました。成果発表では、ウィキペディアに記録された今回の編集履歴を紹介しました。

ウィキペディアの編集履歴

(3)「統計データ」

「愛知県河川水量年報」

“当日枠”として参加者から提案として出されたアイディアです。デジコレには、昔の統計データが数多く収録されているため、地域ごとに残っているさまざまな統計について調べました。その結果、明治8年刊行で、山の高さや宮内庁に務める人たちの給料など、幅広いジャンルの統計が掲載されている「内国表」や、1883年刊行で、家計の帳簿をつけることを勧めた「家政統計簿」、明治に刊行された「愛知県河川水量年報」などを見つけることができました。この「愛知県河川水量年報」は、水量を測定する機材を投入した結果、臨時増刊号として刊行されたものです。これらの資料は統計という体を成していない部分もありますが、データを収集してから活用に至るまでまで、現在のオープンデータやオープンガバメントなどのムーブメントにつながる動きがあったのではないか、という感想で締めくくりました。

(4)延遼館

東京都立多摩図書館からの提案されたテーマです。延遼館とは、19世紀後半、現在の浜離宮に存在した迎賓施設で、2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催に向けて復元を目指しています。同館はデジコレで検索すると20数件がヒットし、それをもとにキーワードを拾って調べたほか、国立公文書館などデジコレ以外の資料も調べました。その結果、浜離宮の庭園の地図や、延遼館が保有していた焼物や料理の資料、ジョサイア・コンドル博士による家具什器類の意匠、天覧相撲の絵、「明治天皇とグラント将軍との御対話筆記」といった資料が見つかりました。「延遼館」というキーワードをもとに、歴史や施設など、色々な方向に展開していくことによって、ウィキペディアに書けるような色々な情報を発見できるということがわかりました。

「明治天皇とグラント将軍との御対話筆記」

(5)二宮尊徳

広告の比較

神奈川県立図書館から提案されたテーマです。二宮尊徳についてはウィキペディアに充実した記事が載っているので、作業前の下準備としてそれらの記事を確認しました。その結果、引用などを含めて付け足せる部分が色々と見つかりました。たとえば二宮尊徳には、“二宮金次郎”や“二宮金治郎”など名前に諸説あり、検索キーワードごとに異なる資料が見つかりました。また、二宮尊徳の銅像については、官報に二宮尊徳の銅像に関する記事が多く載っていることや、「実業の日本」などの雑誌に館内の様子が公開されていること、最初の石像が昭和2年に名古屋博覧会に出展されたらしいことなどもわかりました。さらに、官報に銅像を使った広告が載っており、1929年と1939年の広告の比較も行いました。また、戦後の資料を調べてみると、何回か戦後にブームが訪れていたらしいこともわかりました。“二宮尊徳”というキーワードひとつで、時間軸も空間軸も大きな広がりを感じることができました。

(6)テーマ:軽便鉄道/南部葉たばこ

岩手県立図書館から提案されたテーマで、1913年から1936年まで運行していた岩手県の鉄道事業者「岩手軽便鉄道」について調べました。岩手軽便鉄道については、すでにウィキペディアに詳しい説明が掲載されており、そこに画像で追加できるコンテンツはなにかないかを調べました。その結果、「北上川鉄橋」や「柏木平駅」といった古写真を発見することができました。もうひとつのテーマは、岩手の特産品である「南部葉たばこ」です。これについてウィキペディアで調べた結果、葉たばこの生産地に岩手県が含まれていないことがわかり、これは後ほどよく調べた上で、加筆したほうがいいのではないかという話になりました。また、岩手県では伊達藩の活動によってタバコが入ってきたらしいという情報も発見しました。

北上川鉄橋の写真

(7)テーマ:街道

明治時代の日本橋を描いた絵

古代から日本は道で結ばれているということで、「街道」というテーマで調べました。その中でも“五街道”というテーマから“宿場”や“渡し”、“関所”といったキーワードを導き出しましたが、今回は五街道の起点である日本橋の変遷を、言葉ではなく絵で見てみたいということで、日本橋の絵や写真を探しました。その結果、安藤広重「東海道五十三次」の“日本橋”や、明治時代で木造の橋が残っている絵や写真を発見しました。さらに、大正や昭和初期に撮影された日本橋の写真、関東大震災で被災した日本橋を写した航空写真なども見つけることができました。

全体講評
17時15分~17時30分

ワークショップ中、各チームの様子を見て回っていった兼松氏が、締めくくりとして全体講評を語りました。「みなさんそれぞれが、あるテーマについて色々な方向へと興味を広げていくことができたと思いました。地元の話題から色々な方向へと展開し、他の人から出てきたテーマと結びつくことで、思わぬ方向へと関心が移っていく様子が見られました。そのような感覚を持ち帰っていただくことが本日の成果ではないかと思います。今後も、デジコレをきっかけに、ほかのデータベースやほかの方が作ったファイルなどを見て、自分の中で新しいものを発見していただきたいと思います。デジコレは巨大なデジタルの“蔵”みたいなもので、けっしてきれいに整理されてはいませんし、すぐに目的のものを見つけることは難しいと思いますが、そこを掘り起こしていくとさまざまな発見があります。デジコレの中をもっと探っていただいて、みなさんの興味を深めていただき、その成果を表に出していっていただきたいと思います」(兼松氏)

スピーカー:国立国会図書館 関西館 主任司書(電子図書館担当) 兼松芳之氏
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