開催日 | 2016年2月27日 10時30分~18時30分 |
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場所 | 東京大学駒場第2キャンパス(生産技術研究所内)An棟2階コンベンションホール |
主催 | 東京大学空間情報科学研究センター「次世代社会基盤情報」寄附研究部門/一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会 |
●実行委員長・関本義秀氏による挨拶
実行委員長である関本義秀氏が挨拶を行いました。関本氏は、「UDCの目指すところは“地域の課題解決”ですが、それは簡単なことではありません」と前置きした上で、UDCが注目する重要なリソースとして、(1)「Place」(各地域のキーパーソン・場)、(2)「Collaboration」(エンジニア・デザイン・専門知識を持った人による多様な連携)、(3)「Data」(地域に関わるオープンデータ)の3点を挙げました。その上で、UDC2015では拠点が20地域となり、データスポンサーから「国立国会図書館デジタルコレクション」やナビタイムジャパンから得られた経路検索条件などのデータなどの提供があったことや、オープンガバメント推進協議会(9県市協議会)と連携したことも報告しました。データポータルによる提供(DKAN)については、2014年は47地域・約2500件だったのが、今年は153都市・約5000件に増加(調査では18,000件以上のデータを確認)し、これは今年の大きな成果であったと語りました。
今年のコンテストについては、昨年作ったソリューション部門を積極的に評価したいということで賞の数を増やしたほか、地域の自治体の拠点から自主的に特別賞を出すケースも増えてきていると報告しました。エントリー総数は194で、前年度76から大幅に向上し、作品本応募総数も158で前年度56から大幅アップしました。このうち、UDCシンポジウム・地域拠点開催イベントからの応募は71作品(45.0%)です。応募の内訳は、アプリ部門が54作品、データ・可視化部門が30作品、アイデア部門が63作品、ソリューション部門が11作品でした。最後に関本氏は、「一次作品を通過したのは約20作品なので、楽しみにしてください」と締めくくりました。
基調講演「地方自治体・公共政策へのオープンデータ活用の潮流」
東京大学公共政策大学院客員教授・奥村裕一氏が、「地方自治体・公共政策へのオープンデータ活用の潮流」と題して基調講演を行いました。奥村氏は、2009年に幕開けしたオープンガバメントについて説明しました。アメリカは政治主導で進めており、オープンデータによって政府の動きが可視化されて、国民が政策決定に参加する流れになっていると語りました。日本では、オープンデータを公開している自治体数は現在のところ182で、2014年に急激に増えており、データの内容としては、公共施設や人口、避難所などが上位を締めていると語りました。
また、オープンデータコンテストにおけるデータ利用の傾向を見ると、地理空間情報として可視化、市民の欲しい情報の可視化などが多く、データとしては公共データ系のほか、市民インプットデータ系などが挙げられます。さらに、政府は課題解決のためのオープンデータ、ニーズオリエンテッドな「課題解決型のオープンデータの推進」に発想を転換しており、「このような方針を出したことは評価したい」と語りました。
その上で、今後は市民や行政が変わる「オープンガバナンス」を目指す方向となると説明しました。現状は個人の生活に役立つアプリが中心ですが、今後は社会の課題解決に利用できるアプリが求められる時代となり、データの可視化の次はオンラインでの議論へと流れが移って、公共の活動に影響を及ぼす可能性があると語りました。
さらに、地域課題とオープンデータの関係については、「課題に見合うデータはなにか」を考えて公開することが大切で、地域社会のことをデータで確認し、政策の論拠を知るという視点で体系化する必要があると語りました。
また、今後目指すべきオープンガバナンス社会の内容としては、「市民と行政がうまく連携して廻っていく社会」であり、社会全体で社会的な課題をガバナンスすることが大切であると説明。そのためにも、行政プラットフォーム化して、全体を切り盛りするファシリテーション機能を持つことが求められると語りました。さらに、オープンガバナンスを推進するための取り組みとして、「政策見える化カード」の導入や「オープン政策」作りの推進などを挙げました。
【第2部:トークバトル】
●トークバトル3
千葉市市民局市民自治推進部広報広聴課の松島隆一氏と、横浜市政策局政策課(UDC2015実行委員)の関口昌幸氏が、「市民協働のためのプラットフォーム構築」というテーマで議論を行いました。進行は東京大学生産技術研究所准教授の関本義秀氏です。
「市民を巻きこむコツ」という議題について関口氏は、「高齢化社会において今後も市民が参加し続けられるのかというと、それは難しいので、ソーシャルビジネスを行う企業などに地域に入っていただきながら、ビジネス指向で解決することが大切で、企業同士の結びつきも必要」と語りました。一方、松島氏は、「3年前にFixMyStreetという取り組みを行ったところ、住民から寄せられた情報にもとづいてベンチを2週間後に直したら、『直してくれるのですか』と驚かれました。市民に情報をどうやって伝えるかが大切で、役所の行動を色々な視点で確認してもらう意味でも、オープンデータはいい」と語りました。
今後の目標について松島氏は、「ちばレポのデータはオープンデータ化したいと考えています。将来的にはちばレポを日本のプラットフォームにしたいと思っていて、他団体にも使ってもらう取り組みも開始しており、コンソーシアムの設立も考えています」と語りました。一方、関口氏は、「しがらみを超えて隣接する自治体のネットワークを作りたいと考えています。経済ベースで考えたときも、県全体で考えていくのが大事で、ゆくゆくは他県との連携も考えています」とコメントしました。
●トークバトル4
Linked Open DataチャレンジJapan実行委員会事務局長の下山紗代子氏とアーバンデータチャレンジ2015実行委員会事務局長・伊藤顕子氏が、「オープンデータコンテストの事務局苦労話!?」というテーマで議論しました。進行を勤めたのは、インディゴ株式会社の高橋陽一氏です。高橋氏が、立ち上げ時からこれまでの間に、データや地域の枠を広げていったことについて、それぞれの考え方を聞いたところ、下山氏は「継続していくことが重要。任意団体でプロモーション力があるわけではないので、それなりに長い期間を活動しないと認知されません」と語りました。伊藤氏は、「外に対してアプローチしていくことが大切で、ここ1、2年でようやくそういうことが考えられるようになってきました。積み重ねが大事です」と語りました。
さらに伊藤氏は、イベントの広がりという点について、「一度出た作品を育てていく、深めていくという取り組みも必要」と語りました。これに対して下山氏は、「ナレッジコネクタを使って応募作品の紹介ページを作っていただくという方法を採用したのですが、それによってデータセットの公開先などの情報がウェブ上にずっと残るようにしておきたいという思いがあります。過去のものもできるだけ公開し、データベース化して検索できるようにしておくようにしています」と語りました。
また、伊藤氏が「実行委員などコアな人をどうやって増やすかが課題」と語ると、下山氏は「UDCは関係者でも応募できるのが特徴で、それはLODでも同じ。オープンデータの場合、地域でコアになる人が決まっていることも多いので、あえて制限を設けずにどんどん参加できる仕組みがいいと思います」と語りました。
このほか、イベントを深めていくことについて、下山氏は「LODは審査基準として『オープネス』と『リンクティティ(つながる可能性)』を挙げていて、こうしたことから、ほかのコンテストで評価されないもの、新しい価値を創造するものが出てきています」と語りました。一方、伊藤氏は、「単発の作品ではなく、活動そのものを盛り上げられるような光の当て方を模索しています」と語りました。
●トークバトル5:
会津大学産学イノベーションセンター准教授の藤井靖史氏と、静岡県立島田商業高等学校教諭の鈴木滋氏が、「教育現場におけるオープンデータの活用」というテーマで議論を行いました。進行を努めたのは、国際航業株式会社・和田陽一氏です。「学生が地域の活動に参加したときに、どのような影響や効果があったか」という質問について、藤井氏は「学生が色々なものを作りたいと思ったときに、これまでは、そもそもデータが手元にありませんでしたが、これからは使えるデータがあるということで、モノを作るクオリティが上がると思います」と語りました。これに対して鈴木氏は、「うちの場合は地域貢献のアプリを作ることをきっかけに地域の人とふれ合うきっかけとなり、成長度合いも著しく、大人と話す良い機会になります」と語りました。
学生の発想については、「突拍子もないこと、普通の人は考えないようなアイデアが出てくるし、大人が感心することもあります」(鈴木氏)、「小さい頃からデジタルガジェットに慣れ親しんだ“デジタルネイティブ”はまったく発想が違うので、作ろうと思うモノも違うと思います」(藤井氏)と語りました。
また、そのようなことを踏まえて、「大人はどのように子どもに関わっていけばいいのか」という議題に対しては、「若者が思いついたことをそのまま形にできるような環境を作ってあげたい」(藤井氏)、「若者が『こうしたらいいのではないか』という意見を出したら、できるだけ取り入れるようにしています」(鈴木氏)と語りました。
さらに、「地域と学の共同体を作って廻していくにはなにが必要か」というテーマについては、「大学との連携、信頼関係をどう構築するかが大切」(藤井氏)、「学校内の協力者と連携して進めることが大事」(鈴木氏)と語りました。締めくくりとして藤井氏は、「若者がどれだけ地域に関わるかがキーポイントになります。街作りにおいてハード面で若者が関与することはほぼ無理ですが、ソフトウェアについては地域はフロンティアなので、UDCなどのコンテストやシビックテックなどは今後の日本にとって非常に大事だと思います」と語りました。
●地域拠点からの活動報告③~UDC2015の振り返りとオープンデータへの取り組み~
●静岡ブロック(静岡県企画広報部情報統計局情報政策課・浦田芳孝氏)
静岡県では、「しずおかオープンデータ推進協議会」がセミナーや勉強会、意見交換会、共通データ項目の公開依頼、IODD2016イベントなどをおこなっています。また、静岡市の取り組みとしては、道路情報やクルマ情報をテーマとしたアイデアソン・ハッカソンの開催、「シズオカ オープンデータポータル」の開設、「シズオカ アプリコンテスト」の開催などが挙げられます。さらに、島田商業高校においてオープンデータへの取り組みを行ったり、「5374アプリ 三島版」を作成したりしています。次年度の取り組みしては、UDC2016の最終審査会を目標にしずおかオープンデータ推進協議会と連携しながら、取り組みを進める予定です。
●東京ブロック(日野市企画部地域戦略室・中平健二朗氏)
日野市では、一昨年11月下旬にアイデアソンを開催したほか、地図作成イベントとして「日野マッピングウォーク」を開催しました。このイベントでは、現地調査を行った上で、Esriジャパンの「ストーリーマップ」を使って情報を地図上で可視化しました。イベント当日は「他世代情報共有」をテーマに町の体験スポットなどを調べるチームと、公園&防災をテーマとした「ソラを生かす日野」チーム、バリアフリーをテーマとした「ハートフルプロジェクト」の3チームに分かれました。2日目はデータ活用およびアイデアソンを開催しました。さらに、3日目はUDC応募に向けたセッション、4日目にプレゼン資料を作成するワークショップを開催しました。このほか、首都大学東京の渡邉英徳氏とのコラボレーションにより、学生たちのアイデアプレゼンテーションを開催したり、新たなビジネス創出や社会課題の解決に取り組むための「価値共創ポータル」も開設したりと、さまざまな活動を行っています。
●茨城ブロック(水戸市市長公室情報政策課・北條佳孝氏)
水戸市は、オープンデータで目指すものとして「観光」「町中のにぎわい」にターゲットを絞り、データ公開の基盤作りとして「水戸市オープンデータライブラリ」を開設しました。このほか、「産学官民連携」と「シビックテック」の2本立てで取り組むことを考えており、その一環として「ウィキペディアタウン水戸@偕楽園」を開催しました。このイベントでは、市民が自ら観光情報を提供してウィキペディアを作成する体験を行いました。また、「インターナショナルオープンデータデイ」への参加や「水戸市オープンデータ利活用研究会」も開催しています。今後の展望としては、地方創生のための総合戦略や地域の金融機関との連携にも取り組む必要があると考えています。
●作品プレゼンテーション
<ソリューション部門>
「BODIK ODCS(ビッグデータ&オープンデータ研究会in九州 オープンデータカタログサイト)」
オープンデータ担当部署を設けることが難しく、予算を取るのも難しい小規模な自治体向けに無償のオープンデータカタログサイトを提供するクラウドサービス。「CKAN」と「Wordpress」という2つのオープンソースソフトウェアを統合しており、デザインも色やロゴを指定できます。DATA.GO.JPとの連携を想定した設計を行っており、複数の自治体をまとめたサイトを構築できます。九州の全自治体をカバーしたオープンデータポータルサイトを実現したいと考えています。
「写真で紐解くたまがわ」
二子玉川周辺の地域子写真を収集してデジタルアーカイブを収集する取り組みです。アーカイブ基盤には「Wikimediaコモンズ」を採用し、すべての写真にオープンライセンスを適用することで開かれたアーカイブを構築するとともに、アーカイブ作業そのものもオープンなイベント形式にしています。アーカイブした写真をパネルやマップなどに二次利用して、色々なところで使えるようにしていきます。また、それらを媒介して、地域内で他世代/新旧住民の交流の場作りをサポートします。
「自由なOpenStreetMapでハザードマップを作成してみました!」
福島県内を中心にOpenStreetMap(OSM)の地図作成活動を行っている有志団体「OpenStreetMap Fukushima」による、OSMを利用してハザードマップを作成する取り組みです。航空写真をトレースして建物や道路の線を描き込み、これをベースに災害情報を重ねました。災害情報は、国土数値情報ダウンロードサービスから、「土砂災害危険箇所情報」および「浸水想定区域」のデータをダウンロードしました。さらに、避難所の情報も追加するとともに、標高点データをもとにハザードマップの3D化も行いました。
「PUSH大阪&PUSH広報」
行政が発信する新着情報を、市民のニーズに合わせてアプリで配信する仕組みを構築しました。大阪市や24区が配信しているRSSを受信し、収集した情報をLOD化しました。各自治体で使われるキーワードや、記事に含まれるキーワードランキング、月ごとの配信記事数の傾向、SNS上でのシェア数ランキング(ベータ版)などを調べることができます。
「会津若松市空間位置情報付き写真データの整備と普及」
JOSM勉強会による取り組みで、会津若松市や福島県の位置情報付き写真を、位置情報付き写真共有サイト「Mapillary」を活用してオープンデータとして共有する活動です。市民が撮影した写真を共有・公開することで市民にとって貴重なオープンデータの財産となるほか、写真の利用者は場所とリンクした写真の利用が可能となります。さらに、市民自らが写真を撮影することで新鮮な情報発信のステージとなるほか、OSMなどと組み合わせることで自由度の高い情報共有の場を作れます。